「グループ法人税制外し」と認定された事例

「グループ法人税制外し」と認定された事例
審判所裁決平成28年1月6日(グループ法人税制外し事件)

1.100%企業グループの内部取引から生じる損益を繰り延べる税制

グループ法人税制とは,100%の資本関係で結ばれた企業グループの内部で行われる一定の取引から生じる損益を繰り延べる税制をいいます。例えば,そのような企業グループ法人同士で不動産を譲渡した場合,一般に,不動産の譲渡から生じる損益は税務上繰り延べられ,その後,グループ外の者にその不動産を転売した際に,初めて損益を認識することとされています。
100%の資本関係で結ばれた企業グループの関係を,完全支配関係といいます。グループ法人税制は,完全支配関係のある法人間の取引に適用されます。これは,完全支配関係のある企業グループは一体となって取引を行うことが多いため,グループ法人の実態に即した課税を行う観点から,完全支配関係のあるグループ法人を一体とみて課税を行うという考え方に基づいています。
他方,完全支配関係がない法人間の取引については,形式的には,グループ法人税制は適用されません。もっとも,グループ法人税制の適用を免れるために,意図的に完全支配関係を外したような場合は,どのように税務上取り扱われるでしょうか? 本件では,まさにその点が問題となりました。

2.法人税の負担を不当に減少させる場合といえるか

本件では,同一の者により株式を100%保有されている納税者とその兄弟会社との間で,不動産を譲渡しようとしました。納税者と兄弟会社との間に完全支配関係がありますので,グループ法人税制が適用されると,不動産の譲渡から生じる損益は繰り延べられることになります。そこで,納税者は,完全支配関係を外すことにより,グループ法人税制の適用を免れて,譲渡から生じる損失を認識しようとしました。
具体的には,納税者の経理部長1人に対し株式を1%割り当てて,同一の者の持株割合を99%に下げて,形式的には完全支配関係がない状態にし,その上で兄弟会社に対する不動産譲渡を実行しました。そのため,このような場合にグループ法人税制の適用を免れることができるかが問題となりました。
本件の納税者のように,少数の株主によって支配されている同族会社においては,法人税の税負担を不当に減少させる行為又は計算が行われやすい傾向があります。そこで,税負担の公平を維持するため,法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合は,税務署長は,これを正常な行為又は計算に引き直して課税できることとされています。本件では,その場合,上記の株式割当てがなかったものとして,グループ法人税制を適用できることになります。

3.経理部長1人に対する株式の割当ては経済的合理性を欠く

審判所は,法人税の負担を不当に減少させるか否かは,専ら経済的,実質的見地において同族会社の行為又は計算が純粋経済人として不合理,不自然なものと認められるかという客観的,合理的基準に従って判断すべきとしました。即ち,同族会社の行為又は計算が客観的にみて経済的合理性を欠くか否かがポイントです。
本件において経理部長に割り当てられた株式の払込金額は,納税者の事業規模と比較すると僅かであり,資金調達の経済的効果はないに等しいものでした。本来,新株発行による増資は,企業活動に必要な資金の調達や財務基盤の強化を目的として行われますが,本件は,そのような目的の増資ではなかったといえます。
また,納税者には,約1,000名の従業員がいましたが,株式の割当てを受けたのは経理部長ただ1人でした。経理部長以外の従業員に対しては,その後も一切株式の割当てを行っておらず,そもそも株式の募集の周知もしていませんでした。そのため,従業員の士気を高揚する目的も否定されています。
結局,納税者の財産状況や経営状態等を具体的に検討して株式を割り当てたものではなく,経済的合理性を欠いているので,法人税の負担を不当に減少させるものとして株式割当てが否認され,グループ法人税制を適用すべきものとされました。

4.これからの税務コンプライアンス

納税者も,本件の株式割当てによりグループ法人税制の適用を免れることができるかどうか,事前に検討をしていたようです。そして,株式の払込金額については十分合理的な検討がされていると主張していました。
しかし,審判所は,株式の払込金額は,単に税務上問題とならなければよいとの観点から定められたものに過ぎず,経済的合理性の観点から,納税者の財産状況や経営状態を具体的に検討した形跡は窺われないと一蹴しました。
最近,同族会社の行為又は計算については,法人税の負担を不当に減少させるものとして否認すべきかどうか,税務当局がこれまで以上に注視しているようです。従って,同族会社が節税効果を念頭においた取引を行う場合は,その取引の経済的合理性を客観的に説明できるか,より慎重に検討する必要があります。
その際,問題となる取引の対価のみに着目して,それが適正な対価かどうかを検討するだけでは足りず,同族会社の財産状況や経営状態を踏まえ,問題となる取引をその同族会社が実行することについて相応の経済的合理性があるかどうかを具体的に検証するのが望ましいでしょう。

<筆者プロフィール>
北村 豊(弁護士・ニューヨーク州弁護士)
EY弁護士法人パートナー。京都大学法科大学院非常勤講師(税法事例演習)(2010〜15年)。長島・大野・常松法律事務所(00〜09年),金融庁総務企画局政策課金融税制室課長補佐(09〜12年)を経て,13年にEY弁護士法人を創設。法務・税務・会計の専門家が協働することにより付加価値の高いサービスを提供できる税務訴訟・審査請求・税務調査対応に注力しています。なお,本メールは,筆者の個人的見解であり,筆者の属する組織の見解ではありません。

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