当然失期条項はレンダーに有利か

負債性(デット)の金融商品には、金銭消費貸借契約書や社債要項において、元利金の支払期限(弁済期)が定めてある。

「何かの事象が生じた場合、債務者は、元本全額について期限の利益を喪失する」といったように、借主の期限の利益を喪失させる事由(失期事由)が定めてある。

失期事由には、当然失期事由(それが生じたら当然に失期する事由。例えば、いずれかの利払日における利息の不払等。)と請求失期事由(それが生じて、かつ、債権者が債権者に対して期限の利益を喪失させる旨の通知(失期通知)をした際に失期する事由。例えば、金銭債務以外の債務の不履行等。)とがある。

一般的に、デットの回収に重要な影響をおよぼす可能性がある事由を当然失期事由、そのほかデットの回収に何らかの影響をおよぼす可能性がある事由を請求失期事由に振り分けるが、このような振り分けが常に合理的である訳ではない。

「各利払日において債務者が利息の支払をしないこと」が当然失期事由になっている例では、
(1)債務者がある利払日において銀行のシステムエラー等の事由により利息の支払に失敗したが、翌営業日には支払が行われたようなケース

(2)債務者がある利払日において利息の支払に失敗したが、一回延滞があっても、債務者の信用力に問題がないため、債権者に当分の間取引を継続する意思があるようなケース

のいずれのケースにおいても、この条項によって失期が生じることになる。

もちろん、債権者が債務者に対して遅延損害金を請求せず、元本全額の支払を請求しないといったように、運用によって失期が生じていない状態を作り出すことはできるが、このような債権者の対応は、(i)黙示の合意により期限の利益を再度付与したものとか、(ii)あらためて債権者が債務者に期限の利益を喪失させる旨の意思を表示しない限り失期しない旨の宥恕(ユウジョ)である。

例えば、(2)のケースで、数ヵ月後にいよいよ債務者の信用力が悪化し、一回延滞があったことを理由に、債権者がいざデットを失期させようとしても、「黙示の合意によって期限の利益が再度付与された」とみなされて、失期させることができないおそれがある。
このように、何でも当然失期事由とすることは、債権者の運用によっては、請求失期事由とするよりも債権者にとって不利益となる場合がある。


「当然喪失」となる一定の事実とは、
①破産、民事再生手続開始、会社更生手続開始等の申立があったとき
手形交換所の取引停止処分を受けたとき
③弁護士等へ債務整理を委任したとき、自ら営業の廃止を表明したときなど、支払を停止したと認められる事実が発生したとき、

「請求喪失」となる一定の事実とは、
①債務者が債務の履行を一部でも遅滞したとき
②担保物件に対して差押または競売手続の開始があったとき
③保証人について以上のような事実が生じたとき